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自動運転を市場形成の視点から考える

[ Editor’s Column 自動運転 ]

自動運転の実験が世界中で行われ、制度も徐々に整備されてきた。まず、どの分野が実用化されるか?その時期は?以下4つの視点から考える。

◆お客さんは、お金を払い、モノやサービスを購入する際、「安全でしょうね」ということが大前提である。
現在開発中のセンサー、カメラ、ライダー、AIなどの技術をもってすれば、ほとんどの分野で人間の能力より確実である。
しかし、いざというとき、例えば大雪、トンネルの中、クルマと歩行者が混合かつ信号が順守されていない複合的な局面の事態発生時に大丈夫か?については、必死の開発が行われている。
総じて人間の能力より優れ、交通事故の削減に役立っても、ロボット車での事故は、世の中が許さない可能性が強い。人間の過失は認めても機械には厳しい、という現状である。
したがって、まず比較的容易な環境から導入されることになろう。各地で精力的に講演を行っているインテルの野辺継男氏(名大COI客員准教授)は、まず、高速道路でレベル3以上が導入、一般道ではレベル4から徐々に導入、2030年代にかけて急速に進むのではないかと解説している。nobe.jpg

この観点からも、有力なのは高速道路における物流ということになる。
 先月、トラックの連結については3台まで可能という案が国土交通省から出され、新東名道路専用レーンを新設する予算措置が取られた。
 高速道路上でのバスについては、物流と比較して容易ではない。トラックと同様、運転手のコスト削減という意味では魅力あるが、トラックは先頭車にドライバーが乗車を想定しているが、バスは連結を想定してない。という事は、一般道よりは導入は容易と思われるが、安全性の面ではハードルが高い。
技術的に、比較的容易なものに「バレーパーキング」が挙げられている。当面は専用駐車場での運用となる。自動車工場での新車ラインオフ時の「ライン測から車両ヤードへの搬送」「陸送ヤードから海上運搬船での搬入」の導入など自らのフィールドの閉鎖空間での自動運転と自動駐車を実現してほしい。下記は国土交通省資料。
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◆次に経済合理性、簡単に言えば「安価か?」ということである。
難しいことは抜きにして、お客さんがどの程度のお金なら支払うか?企業は何年ぐらいで元が取れるかということである。
自動運転車がどの程度の価格で提供されるか?例えばLidarがどの程度の価格か?
OEMもサフライヤーも技術開発と同時にコストダウンについても必至に取り組んでいるが、現在の車両より相当高くなることは確実である。
現在も自動車は、家電やPC等他の消費財がコモデティ化して価格低下しているのと好対照である。むしろ、安全や環境性能アップのため高付加価値機能部品搭載により上昇してきた。軽自動車の価格推移や超高級車の価格からみても一目瞭然である。
トラックやバス、タクシーのよう人件費削減との兼ね合いで判断される業務用車両を除くと高価格車両が中心にならざるを得ない。また、自動運転車両に対して、公的な補助が予想されるが一律の補助はあまり好ましい傾向とは言えない。

◆「公的な補助」の視点。
「公的な補助」は「社会課題解決への」寄与度が尺度になる。移動・交通需要は経済学的には「派生需要」と位置付けられている。
人のライフステージ別にみると、単独の移動が可能となる5歳程度からの義務教育時代、高校・大学時代、就職、退職、後期高齢期、によってニーズは異なる。国土交通省が行っている「全国都市交通特性調査(平成27年)」によると三大都市圏、地方都市圏とも 49 歳以下で経年的にトリップ原単位が減少し、一方、70 歳以上の高齢者のトリップ原単位は増加傾向にある。高齢者にとって移動自体が派生需要でなく「本来需要になる」割合も増えているのではないと思われる。h27cyousa.JPG
今後交通事故削減、高齢者や過疎地での交通サービス維持などの社会課題解決のために補助政策は必至であるが、ETC普及時の社会実験で見られたバラマキに近い補助策は(「背景として当時の政治環境があった」とは)言え望ましくない。

◆市場の育成のためには、インフラの改革は必須である。
冒頭述べた高速道路でのトラックの隊列走行については、当面専用的走行路の確保が望ましい。都市部についてもバスのガイドウエー的な走路維持がされれば普及が期待できる。
また、自動運転時代の特に都市部の交通信号や歩道を含めた道路構造、駐車場の構造などの改革が市場の形成に大きく影響する。このことは、行政組織や相互の役割分担についても影響する。
最近話題のMaaSの普及についてもデータの共有や通信インフラの標準化が不可欠であり容易ではない。
自動車産業の100年に一度の変化の波は、陸上交通行政組織や仕組みにとっても100年に一度の波となる。

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