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【ライドシェア 市場を巡る動き 《その2》】ソフトバンク 孫会長の危機感

[ Editor’s Column ]

◆◆ソフトバンク株式会社(SB)は、7月19~20日、ザ・プリンス パークタワー東京にて、「SoftBank World 2018」を開催した。(今年で7回目。)
『情報革命で、すべてが繋がる、世界が変わる』をテーマに、SB社が注力する「IoT」、「AI」、「ロボット」、による導入事例、テクノロジーの進化による社会の変化を紹介した。

開会初日の基調講演では、孫会長、SVF(Soft Bank Vision Fund)が出資したDidi Chuxing Jean Qing Liu, President、General Motors Daniel Amman, President等、各社の代表が登壇。On line Webでの孫会長の関連部分の発言 要旨は以下の通り。

未来の前ぶれというものは目の前に存在している。
未来は目の前に開かれようとしている。未来のことはよくわからない。日本のビジネスマンの多くは、だからこそ、現状を精一杯生きるべきだと考えている。本当に未来はわからないのか?もしかしたら、真剣にわかろうとしていないから、そう思っているのではないか?そういうことに私は危機感を覚えている。

未来の前ぶれを敏感に捉えて、自分の事、自分たちの未来の事として、一生懸命に真っ先に、だれよりも早く、真剣に、深く考えて、洞察しようという思いで取り組む。そして現状を変えようとする。
世の中の現状を変えようと努力する人としない人、あるいは会社でも...。それで結果は全然違うのではないかと思う。

▼通信もAIのため
現在、人口知能(AI)というビッグバン、シンギュラリティ(技術的特異点)、が発生している。
人間の叡智を、AIの叡智が超えていったときに、「超知性」が生まれ、その超知性はあらゆる産業を再定義していく。すべての産業が再定義されるとするならば、我々はどのようにそこに接していったらいいのか?これは、人類史上最大の革命だと思う。
SBは、この十数年間、通信の会社だと思われていた。ソフトバンク35年の歴史の中で、通信分野の会社としては、3分の1程度の十数年にすぎない。
ソフトバンクは会社の創業から「情報革命」をモットーにやり続けている会社である。その情報革命の中核事業の1つが通信であり、その通信も、AIのための通信だと思っている。情報革命=AI革命が、これからの時代と思う。

▼ライドシェアを、日本が禁じているということが信じられない
SBグループは2017年、SVFを設立、英国の半導体企業ARM Holdingsをはじめ、各分野のトップランナーに相次いで出資している。
特に交通や医療、金融などでAI関連のサービスをいち早く提供している企業を、(重点的に)傘下に収めている。
中国のライドシェア大手Didi Chuxing(滴滴出行)もその一つだ。同社は、天候や曜日などの条件から需要を予測するAI技術を活用している。ドライバーからのルート要求の処理件数は1日400億超といわれる。
車両から収集している走行軌跡データは、1日当たり100TB以上。急加速発進、前方不注意などのデータを集め、安全運転を心掛けているドライバーには報酬を与えるという施策も展開する。
"眠っている"資産である一般ドライバーを活用し、混雑の解消、運転の安全性向上まで、幅広く手掛けている。

SBグループは、Didi以外にも米国Uber、東南アジアのGrab、インドのOla等ライドシェアサービスの企業に出資。4社の流通総額、約650億ドル(約7.1兆円、17年時点)にのぼる。3~4年後には、17年現在のAmazon.comの取扱高に達するのではないかと思う。

「ライドシェアを、日本が禁じているということが信じられない。
既存の業界を守り、未来を否定している。わざわざ日本が、未来の進化を止めていることには危機感がある。
無許可の白タクと従来のタクシーの争いといった議論ではなく、AIの活用とライドシェアを組み合わせることで、需要と供給をマッチングできる。そうした出来事は、世界中の国々で起きている」
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◆◆新経済連盟が「ライドシェア新法」を提案
孫会長の発言の通り、わが国では、道路運送法により自家用車によるいわゆる「白タク」事業は禁止されている。(2条2項)。このため、Uberが2015年に福岡で行った実験は違反として国土交通省から指導・禁止された。

その後、政府の規制改革推進会議、未来投資会議、国家戦略特区諮問会議等、国会でも度々取り上げられているが、緩和には至っていない。
楽天の三木谷 浩史会長が代表を務める新経済連盟は最も積極的に活動しており、今年5月には「ライドシェア新法」の提案を行っている。その中で、新経済連盟は次のように主張している。

 需給構造の変化
タクシー業界においても人手不足が大きな課題であると認識されている。政府の「規制改革推進会議で複数構成員から、既に都市部を含めタクシーの不足が生じていると指摘されている。

 観光立国(旅客向け白タク問題)
ライドシェアの新法を整備することにより、白タクの蔓延という不正常な状態を是正することにつながる。

 経済効果
ライドシェアビジネスを日本で行うことが出来ないのは日本経済にとって極め大きな損失、(試算では3.8兆円)である。
シェアリングエコノミーの中でも、ライドシェアの市場規模は特に大きい。世界のユニコーン企業上位10社のうち、1位(Uber)と4位(Didi)はライドシェア企業である。
一方、日本では、法環境整備の遅れにより、ライドシェアのプラットフォームが育つ余地はない。そのため、ビッグデータ蓄積ができておらず、自動運転時代を見据えた競争にも遅れを取っている。
また、自動車メーカとライドシェア事業者の提携が次々発表されているが、日本でライドシェア事業を行えないことにより、車メーカが競争上不利にたたされることが懸念される。

 生産性向上・1億総活躍
ライドシェアは国全体の生産性を向上させ一億総活躍にも資する。  消費者利便性の向上(移動オプション追加等)
ライドシェアの導入により移動オプョンが増えることなどを通じて、消費者利便性の飛躍的な向上が期待できる。
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▼今年6月4日に開催された第34回規制改革推進会議では、「来るべき新時代へ」というサブタイトルを付けた第3次答申を行った。その中の、「6.その他重要課題」項で以下の通りとり取り上げている。

「運行管理等にICTを利用することが可能になり、多くの人が通信機器を活用するようになった今、自家用有償運送も含めた地域交通のあり方を根本から再検討し、個々のニーズにきめ細かく応えるべくタクシー事業者の創意工夫を可能とすることが、産業としてのタクシー業界の飛躍のために、そして、高齢者、来日旅行客等の様々な人々が移動のストレスから解放される環境を創り上げる上で、必要である。

したがって、2020 年東京オリンピック・パラリンピック競技大会までを一つの節目とし、さらには、その先の未来の社会にも応えられるよう、しなやかな移動サービスを具体化し導入を目指す。

利用者のニーズや地域交通機関の課題を整理し、ICTを積極的に活用して、利用者ニーズへのきめ細かい対応と運転手の多様な働き方を実現する新たなタクシーサービスの在り方を総合的に検討し、利用者の立場に立って早急に結論を取りまとめる。」とした。 (下線は筆者)

◆◆海外でも米や中国を除くと、利害調整に時間を費やしている国もある。一方、日本のSB、楽天、トヨタはそれぞれの狙いですでに海外の企業に出資している。
引用した答申も利害調整のため言い回しに苦心の跡が見える。ただ、孫氏の発言のように「未来への進化を自分で止めていること」だけにはならないようにしなければならない。
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