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コンパクトシティと自動運転社会 ②

[ Editor’s Column ]

◆◆自動車の変革は都市、土地利用、暮らし、価値観を変える可能性◆◆
◆100年に一度の「ITとAIを起爆剤とした自動車の技術革新」が来る。
それに伴い、産業、経済、都市、土地利用、暮らし、価値観、とあらゆる面に徐々に大変革の波が来る。ドイツが提唱した「インダストリー4.0=第4次産業革命」、経産省が提唱している「Society5.0」、も自動運転を重要な柱としてとらえている。

本コラムでは、先月23日「コンパクトシティと自動運転社会 ①」を掲載した。
その後、「コンパクトシティ」関連の文献に断続的に目を通し、その中で、興味を引いた一冊が、村上敦氏 著の「ドイツのコンパクトシティは何故成功するのか―近距離移動が地方都市を活性化する」(学芸出版社)である。hyousi.jpg

●内容に入る前に、まず興味を引いた理由3点。
①ドイツ、フライブルグ市に在住し現地の実情に詳しい
 (この面では、フランス在住で同国のまちづくりについて詳しく紹介しているバンソン藤井由美氏の一連の著書も参考になる。)
筆者も都市交通政策の取材で長年、欧米各都市を取材しているが、居住経験の有無の差は大きいと実感している。
②日本で土木工学を専攻し、ジェネコンに勤務した経験を持っている。そのため、内容が現実直視型かつ実務的である。
③ 帰国の折は、環境コンサルタントとして、自治体向けの講演や意見交換を行っており、彼我の政策、課題等現状に精通していると思われる。

村上氏の主な論点は以下の通り。
① ドイツには「コンパクトシティ」という用語はない。同様な用語としては「ショートウエーシティ」という用語がある。移動距離の短いまちづくりによって地域の交通を便利にし、経済を活性化している。
都市が「ショートウエーシティ」≒「コンパクト化」しているのは、以下のような制度や文化・伝統による。

• 都市計画における「土地利用線引き」の実施と厳格な運用
• 住宅に対する「戸建て」「所有」への意識の低さによる、人口密度の高さ。
日本では住宅の耐用年数が約30年(木造住宅の減価償却年数は22年)であり短期間で資産価値が減少する。
• 都市の活性化には公共交通が不可欠。また、公共交通を持続可能にするには「財政補助」が不可欠である。
ドイツでは、地方都市で伝統的にエネルギー・電力事業者が公共交通事業も担っており、財源確保の制度が確立している。
• 「モビリティ」「トランスポーテ―ション」は同意語的だが、モビリティは移動回数に重点、トランスポーテ―ションは「移動距離」に重点を置いた用語、である。


② 自動車ほど便利な乗り物はない。「環境問題専門家」のように自動車を否定してばかりでは問題解決にはならない。しかし、「交通静穏化区間=Zone30」など「マイカーを不便にするコミュニティのデザイン」を行わないと公共交通は成立しにくい。また、費用対効果の観点から自転車の重要性を認識すべきだ。

③ 都市の活性化には住民の「職場と金」が不可欠である。

④ 日本は、人口減少や団塊の世代が75才になり、自動車免許の返上が余儀なくされる2025年ごろは、車主体の交通は成り立たなくなる。早急に対策を打つべきである。

人口減少問題について総合的に示した文献としては、国土交通省が2011年にまとめた「国土の長期展望」は出色であるが、東日本大震災などもあり、最終報告は出されていない。一方、政権交代後出された「国土のグランンドデザイン2050」は縦割りかつ総花的内容で地方の現実と将来を変革することは出来そうにない。

⑤ ウーバーのようなシェアリングやIoTは多様な交通を選択可能にするが、ロードプライシングとITSで車は減少にはつながらない。
以上少し長く紹介した。冒頭に記した3点から大変参考になる。

◆しかし、本稿の関心は、来るべき「自動運転」「シェアリング」などのCASEの時代の交通市場にますます便利、快適になる自動車を「不便にする」、現状の公共交通で対応する対策が正しいのか?という点である。

◆堀 義人氏(グロービス経営大学院学長)は、2016年3月の書籍『日本を動かす「100の行動」』の59番に「財政に頼らない民間主導による交通インフラ投資を!」を提案し、「路線バスの民営化を徹底せよ!」として次のように述べている。



「地域の路線バスは、赤字を税金で補填しているのが実態。そのような中、経営共創基盤は、傘下の「みちのりホールディングス」を通じて、地方の路線バス会社を次々に買収、再生させてる。

積極的なICTの導入で効率化を図り、サービスを向上させ、中心部を走る路面電車などの柔軟な組み合わせで、高齢化社会における地域住民の移動手段を確保する必要がある」


◆今月コペンハーゲンで開催された「ITS世界会議2018」では、会場付近で小型自動運転バスデモ走行していた。西鉄はアジア太平洋地区で企業表彰を受け、東急はMaaSに関する取り組みをプレゼンしていた。公共交通企業もやっと動き出している

◆東京オリンピック2020では、選手輸送に利用が予定されている自動運転バス、超小型の電動車、住居の一部ともなる将来の車両のコンセプトの紹介がなされている。

◆インフラ投資の効率化と都市におけるリアルな人の出会い・交流の価値は否定できないが、買い物におけるアマゾンなどネット企業のの「トラヒック」の増加や、働き方改革での通勤交通の変化が期待される。変革の時代であるからこそ、新しい発想によるスマートシティづくりの取り組みが重要になる。

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