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ライドシェア 市場を巡る動き―ソフトバンク対トヨタの攻防②

[ Editor’s Column ]

―両社の提携、「MONET 」の名称復活―
今年7月13日、本コラムで「ライドシェア 市場を巡る動き―ソフトバンク対トヨタの攻防」というタイトルで下記のように書いた。
『自動車、IT業界がライドシェア、自動運転という分野で激しい陣取り合戦を行っている。
モノ作りを原点とし、"MaaS"というサービス事業に進出しようとするトヨタ、くるまを情報革命の"1つの部品"とみなし、クルマを取り巻く事業環境変化を「絶好の投資案件」と見るソフトバンク(以下SB)、生い立ちや企業行動・理念が両極にある2社の攻防が繰り広げられている。』



◆◆10月4日、同社は提携を発表し記者会見した。
記者会見を聞くと、上記ブログを書いたその頃、両社は提携の話し合いをしていたことになる。
トヨタのプレスリリースによると「両社はモビリティサービス会社「MONET Technologies(モネ テクノロジーズ)株式会社」(以下「MONET」)を設立して、2018年度内をめどに共同事業を開始すると発表(資本金20億円で、将来的には100億円まで増資する予定)。
MONETでは、トヨタが構築したコネクティッドカーの情報基盤である「モビリティサービスプラットフォーム(MSPF)」と、スマートフォンやセンサーデバイスなどからのデータを収集・分析するソフトバンクの「IoTプラットフォーム」を連携させる。
クルマや人の移動に関するさまざまなデータを活用することで、需要と供給を最適化し、移動や医療における社会課題の解決、新たな価値創造を可能にする未来のMaaS事業を開始する、としている。


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◆◆提携の背景
上記の説明だけでは分かりにくいが、両社長の記者会見で、少し明らかになる。

▼孫氏は、「トヨタは自ら作ってオペレーションする側。トヨタが中心に事業を起こし、技術開発する。SBの投資した企業群の会社がAIを作る。SB は両者を仲介して、ファミリー作りを支援する」方法を取るという。

▼トヨタ社長は「製造メーカーではなくモビリティサービスの会社」になるために、(内外の先端会社の)「ドアを開けたら、必ず孫さんが前に座っていた。こういうところから"時が来た"のだと思う」と説明した。
ウーバー、グラフ、Didiなどのライドシェア会社、エヌビデア、ナウトなどトヨタが出資を試みた企業はソフトバンクが先行して主要株主になっていることを指している。
トヨタの「未来創生ファンド」と[softbank vision fund]との幅及び深さの違いは明らかで、脱メーカを推進するには、投資家 孫氏の協力が不可欠だったわけである。

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◆◆SBが出資比率で過半数を握る
両社の関係はSB 50.25対トヨタ49.75の0.5%の出資比率差に端的に表れている。
孫社長は2018年3月期の株主総会で300年続く「企業群管理」の考え方を説明し、その中で、スプリントvsTモバイルの合併合意を例に、今後必ずしも多数を取ることにこだわらないと発言したばかりである。

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また、7月19~20日開催された「SoftBank World 2018」の基調講演でAIが世界を再定義するとしたうえで、100年前の主たる移動手段であった馬は現在では「愛馬」としての位置づけである。聞き方によればトヨタの考えへの痛烈に皮肉である。当時は、おそらく提携交渉の最中であったと思われる中での発言である。



◆◆スピード合意
報道が正しければ約半年間の交渉で提携発表までに至ったのはトヨタにとって相当のスピード感、変化である。
トヨタで長年自動運転技術の開発に携わり、現在(株)先進モビリティ会社のA社長は、共同出資で設立したSBドライブ等の体験で「ソフトバンクは意思決定がトヨタの100倍速い」(東洋経済 6723号)とコメントしているほどである。
また、トヨタは、自動運転関連の技術開発、企業群の再編を推進する一方、モノづくりの原点であるTPS と原価低減という徹底を図ろうとしている。TPSではホワイトカラー層への再教育であり、原価低減は「内製化による固定費の削減」の徹底である。
これらの動きとスピードとの両立が課題となる。内製化に偏りすぎると、前述のAI氏が批判した旧自工の社風に戻る恐れがある。


◆◆歴史は繰り返す
歴史は繰り返すという意味では、MONETという名称の復活にも驚いた。古くからトヨタのITSテレマチックスをウオッチしてきた関係者もビックリさせられたではないか?
トヨタは、1990年後半、Toyota Media Station (TMS)という会社を、トヨタ、富士通、松下電器、アイシン精機、電通など7社で立ち上げ、カーマルチメディア事業を展開するコアとした。
同社が展開するクルマ向け情報サービス名は『MONET』(モネ)と呼ばれ、ETCやIMTS,いわゆるTime シリーズ、EV車クレヨンの共同利用などを以下の5つのコンセプトで展開し、モビリティ企業を目指すと社内で看板も立てていたが、2002年にGazooに統合し実質的に消滅した。
1)自動車自体を高機能にする「インテリジェント化」
2)新しい移動体情報通信による「カーマルチメディア」
3)社会インフラと車の協調の為の「ファシリティーズ」
4)高効率な総合輸送システムを目指す「ロジスティクス」
5)次世代の新交通システムとなる「トランスポート」
ただ、新旧「MONET」の違いは、旧が販売店も巻き込んだ「BtoC」を推進したのに対し、新は「BtoB」を基本としている点である。

「歴史は繰り返す」という意味では、メディアへの対応の変化も興味深い。
両社は、記者発表後,小谷真生子氏司会のトーク形式の対談に登壇した。リーマンショック後の赤字化、フォローマットに起因するリコールなどでの一連の報道ですっかり「メディア嫌い」になったトヨタはCES2018 での発表やマツコ・デラックスとの対談番組などで「メディア嫌い」を払拭する努力を重ねている。

これは、1970年~1980年に、リコール、大気汚染、反大企業の風潮にすっかり[Media Shay」になった時代から「Hybrid」車の投入や「カイゼン」等をキーワードに積極的なメディア対応を行ってきた時代の復活である。

◆◆両社の考えは基本的に異なる
コモデティ化を避けたいトヨタと、クルマはIoTの一端末にすぎないとするソフトバンクの思想は根本的に異なり調整は容易ではあるまい。
豊田社長は、「資本でまず一緒になって量を拡大する方向はとっていない。もっといい車を作ろうという同士であれば、オープンに"この指とまれ"のような感じでアライアンスを増やしている。そちらのほうがトヨタらしいのではないか」と説明、その上で「クルマのコモディ化を避け『工業製品として唯一"愛"が付く商品』」であり、このことにこだわりたいと発言している。

また、「GMクルーズとの関係」について新会社の社長予定者が回答できなかったように調整事項は多い。
いずれにせよ、時価総額で1位と2位の企業の提携は、国の経済にも影響を与える可能性のある大きな決定であり、是非果実を生み出してほしい。

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